小菊栽培を“体系ごと”スマート化 少人数でも続けられる花き産地づくりへ |福島市で小菊栽培に取り組む、合同会社アグリフラワー福島・長澤さんにインタビュー
福島市で小菊栽培に取り組む、合同会社アグリフラワー福島。
代表の長澤さんは、赤色LEDを活用した電照栽培やRTK自動操舵システム、菊選別ロボットなどを取り入れ、小菊栽培の省力化と規模拡大に挑戦しています。
現在は約90アールの小菊を栽培し、出荷調整では2人作業で約1万本を8時間で出荷できる体制を実現。
また、2025年にはスマート農業技術活用促進法に基づく「生産方式革新実施計画」の認定を取得。
福島県内では初、花き分野としても全国初の認定事例となり、スマート農業を活用した先進的な小菊栽培の取り組みとして注目を集めています。
今回は、就農のきっかけやスマート農業導入の背景、現場での工夫、今後の展望についてお話を伺いました。

合同会社アグリフラワー福島代表 長澤徹さん
親の小菊栽培をきっかけに就農
長澤さんが農業を始めたきっかけは、親世代が小菊栽培に取り組んでいたことでした。
約11年前、青年就農制度を活用し、親とは別経営という形で就農。その後、4年ほど前に法人化し、現在の「合同会社アグリフラワー福島」を立ち上げました。
もともとは自動車整備関係の仕事に携わっていたという長澤さん。
現在のスマート農業機械の導入や調整にも、その経験が生かされています。
「機械の調整や修理は、ほとんど自分でやっています。スマート農業機械は便利ですが、その分メンテナンスも必要になるので、以前の経験が役立っています」

小菊栽培の圃場の一部
人手不足や作業負担をきっかけに、スマート農業を導入
小菊栽培では、お盆や彼岸に向けて収穫・出荷が集中します。
以前は、収穫後の選別や結束、箱詰め作業を7人ほどの体制で行っていましたが、繁忙期には深夜まで作業が続き、十分に睡眠が取れない日もあったといいます。
「寝る時間がなくなって、熱中症で倒れそうになったこともありました」
さらに、近年は人材確保も難しくなっており、「今のやり方のままでは、将来的な規模拡大も難しい」と感じるようになったそうです。
そこで長澤さんは、最も時間がかかる作業から機械化を進めるという考え方で、スマート農業の導入を本格的にスタートしました。
栽培体系そのものを見直し
従来の1条植えから、白黒の生分解性マルチを使用した2条植え栽培へ変更。反収の向上に加え、病害虫対策や土壌水分保持、高温対策にもつながっています。
また、生分解性マルチを使用することで、撤去作業の省力化や廃棄コストの軽減も図っています。

2条植え栽培
スマート農業の導入に合わせて、栽培方法そのものも見直しました。
RTK自動操舵でマルチ作業を効率化
作業面では、RTK自動操舵システムを導入しました。
RTKによる高精度な測位を活用した直進自動操舵に加え、作業機にマルチ対応の畝内部分施用機を使用することで、畝間を均一に保ちながら施肥、畝立て、マルチ張りを同時施工で効率化。
耕起からマルチ張りを一人で行っています。

施肥、畝立て、マルチ張りの同時施工
一斉開花に向けた赤色LED電照栽培
アグリフラワー福島では、赤色LEDを活用した電照栽培に取り組んでいます。
小菊は日照時間によって開花時期が変わる「短日性植物」です。
夜間に赤色LEDを点灯することで、植物に「まだ日が長い」と認識させ、開花タイミングをコントロールしています。
また、感光性が高く、感温性の低い品種を導入。福島県農業総合センターとも連携しながら、消灯日の調整による開花制御を進めています。
収穫時期を数日ごとに分散させることで、作業の平準化と計画的な出荷体制づくりにつなげています。

赤色LEDを活用した電照栽培
選別ロボットで出荷調整を自動化
出荷調整には、全自動菊選別ロボット結束機を導入しています。
長さ調整や下葉処理、重量選別、結束までを自動化し、現在は2人作業で約1万本を8時間で出荷できる体制を実現しました。
導入後は、メーカーと連携しながら現場に合わせた改良も重ねています。
作業中にすぐ停止できる持ち運び式の停止ボタンや、菊を機械に載せながら稼働状況を確認できる持ち運び式モニターを導入。さらに、菊の重心を安定させて正確にランク分けできるよう機械の仕組みを見直すなど、現場の作業に合わせた改良を進めてきました。
その結果、現在は最大3750本/時間の処理能力を発揮しています。
「以前のように、寝ないで作業することはなくなりました」
省力化だけでなく、働き方の改善にも大きくつながっています。

全自動菊選別ロボット結束機
一斉収穫による“収穫ロスゼロ”へ
現在、アグリフラワー福島では、小菊用一斉収穫機の導入も検討しています。
一斉開花した小菊を機械で一気に収穫することで、人手不足への対応や品質低下の防止、片付け作業の省力化を目指しています。
2025年には試験機による実証も予定されており、将来的には「収穫から出荷まで」の完全機械化体系の構築を目指しています。
“出口から考える”スマート農業
長澤さんがスマート農業を導入するうえで大切にしているのは、「出口から考える」という視点です。
まず見直したのは、収穫後の選別・結束・出荷調整といった、最も時間と人手がかかる工程でした。
「うちは“出口から”設備投資を考えています」
作業全体のボトルネックを見極め、そこから逆算して必要な機械や栽培方法を組み合わせていく。単に便利な機械を導入するのではなく、栽培から収穫、出荷までをひとつの流れとして捉え直すことが、アグリフラワー福島のスマート農業の特徴です。
小菊産地の未来を守るために
長澤さんは現在、ICT生産管理システムを活用し、作業時間や栽培工程を記録・可視化しています。
カレンダー機能を使って前年の作業履歴や生育状況と比較しながら、栽培計画の改善にも活用しています。
経験や勘だけに頼るのではなく、データを蓄積し、誰でも再現できる農業を目指しています。
「自分が現場から離れても回る農業にしたい。誰がやっても同じ品質で作れる仕組みをつくりたいと思っています」
全国的に農業者の高齢化や人手不足が進む中、近年は気候変動による栽培リスクも年々大きくなっています。
長澤さんが進めるスマート農業は、単なる省力化ではありません。
変化する環境に対応しながら、少人数でも安定して生産できる仕組みをつくり、次の世代へ農業をつないでいくための挑戦でもあります。
「誰かがやらないと、未来は見えてこない」
現在は約90アールの栽培面積を、将来的には180アール規模へ拡大することを目指しています。
スマート農業を活用した新たな小菊栽培モデルづくりが、福島から始まっています。
