フィルム農法で“おいしさ最優先”のトマトづくりを|田村市でトマトを育てる堀越さんにインタビュー

田村市でフィルム農法を用いた高糖度トマト栽培に取り組む堀越さん。
エアコンやボイラー、ミスト、CO₂発生装置などを組み合わせた環境制御を使い、「量より質」を重視した栽培で、リピーターが絶えないトマトを生産しています。
今回は、福島県田村市でトマトを生産している堀越吉一さん(堀越農園たむら)に、スマート農業を活用したトマト作りについて聞きました。

堀越農園たむら代表・堀越吉一さん

フィルム農法で育てる、高機能・高糖度トマト

堀越さんがトマト栽培に選んだのは、特殊なフィルム上で作物を育てる「フィルム農法」。

味への評価の高さが、導入の一番の決め手でした。

「フィルム農法で栽培したトマトはおいしい、という評判がまずあったんです。
農業初心者でも一定レベルの食味を実現できる“システムとしての強さ”があると聞いて、
それならお客さんに胸を張って出せると思いました」

給液システム によって必要最小限の水分と栄養分しか与えないことで、糖度が上がり、リコピンやGABAといった機能性成分も高くなる傾向があります。

真っ赤に色づいたトマトは実が詰まり、リピーターからの評価も高いそうです。

新規就農からスマート農業へ

「おいしいトマトを作りたい」が出発点

堀越さんが本格的にトマト栽培を始めたのは2021年頃。それまでのお米づくりに加え、トマトやイチゴなどの選択肢を検討する中で、「まずはトマトでおいしさを追求してみたい」と考えたのが始まりでした。
ハウスは現在2棟。今後は3棟目を増設し、定植時期をずらしながら栽培期間と「おいしい時期」を長く確保する計画です。

環境制御「エアコン・ボイラー・ミスト・CO₂など」

“昔ながら”と“スマート”の間にある環境制御

ハウス内にはエアコン2基、石油ボイラー、ミスト装置、CO₂発生装置、遮光カーテンなどが備えられています。
温度・湿度・CO₂濃度といった環境データは常時モニタリングされていますが、完全自動とは言えない「半自動」の運用です。

「今のシステムは“昔のスマート農業”という感じですね。
環境制御の機器は一通り揃っていますが、データを見ながら最終的に判断するのは人間。
まだ“データが勝手に最適解を出す”ところまでは行っていません」

夜間は小さな石油ストーブで補助暖房を入れるなど、省エネと品質維持のバランスを取りながらの運用。
屋根の遮光カーテンも手動で開閉するなど、「機械任せにしすぎない」運用が日々続いています。

ミストを使って、ハウス内の湿度を管理

フィルム農法+スマート農業のメリット

「おいしさ」と「働きやすさ」

 

1. 味と機能性でしっかり差別化

一番のメリットは、やはり味と機能性です。

「期待通りの食味が出せたのが一番大きいですね。
甘さだけじゃなくて、リコピンなどの機能性も高い。
お客さんからもはっきり違いが分かると言ってもらえます」

その結果、価格もある程度自分たちの希望に近い設定が可能で、リピーターも付きやすくなっています。

2. 作業環境がきれいで、誰でも作業しやすい

フィルム農法のベッド、養液は根がすべて吸い上げる

土を使わないため、ハウス内は非常にクリーン。
泥汚れやぬかるみが少なく、女性スタッフも含めて作業しやすい環境です。

「奥さんも手伝ってくれているんですが、畑に入るのと違って汚れにくい。
虫やヘビの心配もほとんどないので、作業への心理的ハードルが下がります」

水やりや温度調整は基本的に自動制御のため、「やらなくていい作業」が確実に減ったという実感もあります。

給液時間などをシステムからコントロール

一方で見えてきたデメリット

資材高騰と気候変動という現実

1. ランニングコストの高さ

フィルムや培などの資材は、一般的な土耕栽培と比べて高価です。
加えて、近年の物価高騰により、フィルムは毎年のように値上がり。肥料も1.5倍程度に上昇しています。

「資材は毎年2割ぐらい上がっている感覚です。フィルムも『何年使えるか』より、
お客さんが離れない品質を優先し、フィルム農法を続けています」

ランニングコストがかかる上、フィルム農法は水を絞る分、収量は通常栽培の半分以下。
“量より質”の戦略だからこその経営的な難しさも抱えています。

2. 夏の高温・病害への対応

ここ数年は、夏場の高温に悩まされています。

「ハウス内が40度近くなると、根が止まってしまう。制御できる範囲を超えてしまうんです。
エアコンをフル稼働しても、エアコンから離れたところは温度が下がらないこともあります」

こうした経験から、「気候変動に対応できる品種や栽培方法を模索すること」も、今後の大きな課題のひとつになっています。

「データだけでは足りない」

スマート農業における人の役割

ハウス内の温度・湿度・CO₂など、多くの環境データは蓄積されています。
しかし、それをそのまま環境制御に落とし込むのは簡単ではありません。

「データはいっぱい持っています。
でも、実際の環境制御にどこまで役立てられているかというと、
正直まだまだ。気づいてすぐ行動したほうが結果は安定するんです」

天気が悪くなれば水を30%程度まで一気に絞るなど、「段階的に・先回りして変えていく」調整が必要になります。
その判断には、データよりも「トマトの状態を見て感じ取る力」が欠かせません。

「機械任せにしてはいけない、というのが今のメッセージですね。
環境制御はあくまで“道具”。
それをどう使うかは人間側の経験次第だと思っています」

画像解析と3棟目のハウス

次の一手は「先回りするスマート化」

今後の展望として、堀越さんは2つの方向性を挙げています。

1. ハウスを増やし、栽培時期をずらして「おいしい期間」を延ばす

現状は2棟同時に定植していますが、3棟目を増設し、2カ月ほど定植時期をずらす計画です。
さらに、3棟目のハウスは天井のビニールを50%程度まで大きく開放できる構造にし、夏場の高温対策の実証も行う予定です。

「真夏の高温時期にビニール屋根を大きく開けて、
防虫ネットだけでどこまでいけるか試してみたいですね」

2. 画像処理で“トマトをモニター”しながら灌水制御

もうひとつは、トマトの萎れ具合を画像処理で検知し、灌水量を自動調整する仕組みです。

「トマトって反応がすごく素直なんです。
ちょっと水が足りないと、5分くらいでしんなりして、
また給水するとスッと戻る。
その変化をモニターできれば、
先行して対応するシステムが作れると思っています」

1本の「モニタリング用トマト」を指標に、ハウス全体の水管理を最適化する-。
そんな“次のスマート農業”の実現を目指して、実験を重ねています。

これからスマート農業を始めたい人へ「省力化」から「環境を読み解く技術」へ

最後に、これからスマート農業に取り組もうとしている生産者へのメッセージを伺いました。

「10年前までのスマート農業は、省力化して人手を減らす、
という意味合いが強かったと思います。

今は、環境をきめ細かく制御して、
収量や収穫時期をコントロールすることのほうが重要になってきています」

そのためには、機械やAIに全てを委ねるのではなく、「その土地に合った環境を理解したうえで、省力化と環境制御を組み合わせる」ことが不可欠だといいます。

「環境制御システムを導入することは前提。
その上で、最終的には人が管理するんだという意識を持って使うと、
スマート農業はすごく力を発揮すると思います」