ドローンとラジコン草刈機で“広く・安全に”|郡山市でスマート農業とブランド野菜づくりに挑む鈴木さんにインタビュー

福島県郡山市東部地区で枝豆・にんじん・かぶを中心にさまざまな野菜を生産するまどか菜園の鈴木さん。
水田から転換した畑や集約が進んでいない圃場が多いエリアで、ドローンによる追肥・防除、ラジコン草刈機、営農管理アプリなど、複数のスマート農業技術を組み合わせながら、大規模かつ安全な野菜づくりに取り組んでいます。
今回は、2019年からスマート農業を導入してきた、福島県郡山市の鈴木清美さん(まどか菜園)にスマート農業を導入した背景や具体的な活用方法、今後の展望を聞きました。

まどか菜園・鈴木清美さん

なめこの廃菌床と遊休農地を活用する循環型農業

鈴木さんは、父が創業した「有限会社 鈴木農園」に2012年に加わり、2013年に自身が代表を務める「株式会社まどか菜園」を設立。なめこ・ひらたけ等を生産している鈴木農園のなめこ栽培後に出る廃菌床と遊休農地を利用した循環型農業、及び加工品の販売に取り組んでいます。

現在は、枝豆・にんじん・かぶという3本柱を軸に、合わせて約78ヘクタールの畑でさまざまな野菜の栽培を行っています。自社ブランドの枝豆「おひさまの香り」や、「郡山ブランド野菜」の認定を受けている品種も栽培しており、販売の多くは首都圏で、LIFEなど食品スーパーを中心に展開。JAにも出荷しつつ、独自販売を組み合わせることで、産地との差別化と経営の安定を図っています。

「首都圏の量販店では、“物量勝負”に向かない品種でも、味や特徴が評価されれば選んでもらえます。栽培は難しいけれどおいしい品種や、病害にやや弱い品種など、産地と差別化できるラインナップで勝負しています」

 

自社ブランドの枝豆「おひさまの香り」

 

広大で散在する圃場だからこそ必要になったスマート農業

郡山市東部地区は、標高差が大きくアップダウンの激しい地形

まどか菜園の圃場は点在しており、1カ所あたりは4ヘクタールから大きいところで25ヘクタールほどにまとまっている一方、全体としては「飛び地」が多いのが特徴です。

「圃場が200枚近くあり、土手や法面も含めると『畑の面積より土手の面積の方が大きいんじゃないか』と思うほど。草刈りや移動にかかる時間・労力がどんどん増えていきました」

加えて、借り受けた農地の中には「雨が降ると2週間水が切れない」「水源から1km近く離れている」といった条件の悪い田んぼ由来の畑も少なくありません。
そうした中で、

  • 雨の合間に追肥や防除をスピーディーに行いたい
  • 条件の悪い圃場でも安全かつ確実に作業したい
  • 多数の圃場の履歴を紙ではなくデータで管理したい

という課題意識から、スマート農業技術の導入が始まりました。
2019年頃からスマートフォンでも使える圃場管理アプリを導入し、2021年にはドローン、2022年にラジコン草刈機を使用し始めました。

 

ドローン導入で追肥・防除・緑肥散布を「速く・少ない水で」

ドローンを使用して液肥の散布

まどか菜園がドローンに着目したきっかけは、デモンストレーションを見たことでした。

「水が溜まった畑に、肥料散布のためブームスプレーヤーで入っていったとき、最後は脱出が危うくなることもありました。機械への負荷や畑を荒らすリスクを考えると、『空からできるなら、その方がいいのでは』と思ったんです」

ドローンを導入したことで、追肥・緑肥の散布を、短時間・少量の水で行えるようになりました。

また、散布スピードは従来の600Lタンクのブームスプレイヤーで 「水汲み → 薬剤調合 → 圃場へ移動 → 散布 → 帰還」の1セットに50アールの圃場で約1時間かかっていたところが、条件の良い圃場では約2ヘクタールを1時間ほどで完了できるようになり、作業時間が約25%に削減できるケースもあるといいます。
雨上がり直後や曇天時でも、圃場に入らず散布できるため、 天候に左右されにくい点も大きな強みとなっています。

「水が確保しづらい圃場ほど、ドローンのメリットは大きいですね。水源から1kmあるところに何度も往復するより、ドローンで少量をピンポイントに散布した方が圧倒的に楽です」

連作障害の出た圃場に対しては、緑肥を撒くなどの対策を行っており、 その緑肥の種子散布にもドローンを活用し、土壌の回復にも役立てています。

 

ラジコン草刈機で「危険な草刈り」を遠隔操作に

スマート農業のもうひとつの柱が、ラジコン草刈機です。

「草刈りは、作物の収量に直結しない“見えにくい仕事”ですが、やらないと景観も悪くなるし、雑草が広がって圃場にも悪影響が出ます。虫の温床にもなりますし、安全面でも放置できません」

まどか菜園ではトラクターに取り付ける草刈機や自走式草刈機、刈払機で草刈りを行ってきましたが、ラジコン草刈機を導入することにより、人が刈払機を持って立ち続けなければならない時間は大きく減少しました。

「土手の上か下に立って操作するだけでいいので、足場の不安定さからくる恐怖心がだいぶ軽くなりました。時間も短くなり、何より腰や膝への負担が全然違うとスタッフからも好評です」

パワーがあるため、ある程度荒れた耕作放棄地の再生にも有効。
細い木であれば数回往復することで粉砕でき、「耕作放棄地の入り口を開ける道具」としても活躍しています。

圃場での作業の様子

 

営農管理アプリで「紙からデータ」へ

圃場数が200近くになると、紙での管理には限界があります。

「以前はホワイトボードに圃場マップと作業履歴をまとめて、そこを見に行かないと進捗が分からない状態でした。GAPに取り組む中で『履歴やトレースがすぐ追えること』が一層重要になり、アプリ導入を決めました」

現在は、営農管理アプリを導入し、圃場ごとの作業履歴、施肥・防除・試験区の記録、従業員ごとの作業入力をデータベース上で管理しています。

「精度をどこまで求めるかにもよりますが、まとめて入力すれば、手書きよりもずっと早いです。何より、『あの畑だけ生育が違うけど、過去に何をしたか』をすぐ遡れるのは大きなメリットですね」

 

導入コスト・資格・リスク…スマート農業の「デメリット」も

一方で、ドローンやラジコン草刈機には課題もあります。

ドローンは多量の水を要する薬剤には不向きであり、風による飛散リスクへの厳重な注意が必要です。また、資格取得や飛行申請、保険加入など、運用に伴う手続きやコストの負担も課題となります。

「最初は30万円前後かかりましたが、最近は制度が変わって多少ハードルが下がってきました。それでも“空を飛ぶ”以上、リスクは大きいので保険は必須ですね」

ラジコン草刈機は300万円以上と導入費が高額なうえ、起伏地でのスタックや故障により修繕費がかさむリスクがあります。さらに、飛び石など周囲への安全対策も不可欠です。

「機械が壊れるだけならまだしも、人に当たるリスクは絶対に避けないといけません。防護柵や立ち入り禁止の声かけなど、運用ルールづくりがセットになります」

 

心理的負担の軽減と「女性も活躍できる草刈り」

遠隔操作ができることで、身体の負担も減り、
危険な作業も減らせた。

慣れていないとドローンを長時間ひとりで飛ばし続けるのは心理的負担が大きいため、オペレーターを4人体制に増員。ストレス軽減と安全性向上を測っています。また、ラジコン草刈機を導入したことで女性スタッフも草刈りが担当できるようになり、作業分担の幅も広がりました。

「草刈りが“重労働で危ない仕事”から、“操作に集中すればいい仕事”に変わりました。もちろん楽ではありませんが、『自分が土手の法面に立たなくていい』という安心感は大きいですね」

これから目指したい次の一手は自動操舵・選別機

今後の展望として、自動操舵トラクター・ロボット播種に注目しているといいます。

「経験がなくても、まっすぐ・一定間隔で種まきや作業ができる環境をつくりたいですね」

また、鈴木さんはAIカメラ選別機の導入も検討しています。枝豆・にんじんの選別をAIカメラで効率化し、大規模産地で普及しているような設備を導入し、選別〜出荷までの省力化と品質安定を図りたい考えです。

現在の枝豆を選別している様子

 

これからスマート農業を始めたい人へ「導入がゴールではない」

最後に、これからスマート農業技術の導入を検討している生産者へのメッセージを伺いました。

「スマート農業そのものが素晴らしい、というよりも、“その技術を最大化しようとする意志”がないといきてこないと思います。
ドローンを入れたら、その前後の薬剤準備や水の手配まで含めて効率化を考える。ラジコン草刈機を入れたら、『どこで使うか』『誰がやるか』をマップ化する。そうやって運用まで含めて考えないと、投資に見合う効果は出ません」

「もう一つ言うと、人力で限界までやってみることも大事だと思っています。草刈りの苦しさを知っているからこそ、ラジコン草刈機のありがたみが分かる。技術に甘えるのではなく、“どう使えば一番いきる か”を考え続けることが、スマート農業の本当の価値につながるのかなと感じています」